旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
結局あれからこの兄弟は言葉を交わしていない。
颯が充さんにコンプレックスを感じていて、兄弟の仲が円満じゃないのは分かっているけど……でも、滅多に会えない兄弟なんだから、こんなそっけないお別れは少し寂しいと思う。
充さんは眉尻を下げさっきよりも親近感の湧く笑みを浮かべると、「俺、あいつに嫌われてるからさ」なんて悲しいことをサラリと吐き出した。
兄弟の仲を取り持ちたいなんて、おこがましいのは分かってる。でもふたりの関係がモヤモヤしたまま続くのも、新しく結城の一員になる私としてはすごく嫌だ。
せめてもう一度颯の顔を見て挨拶ぐらい、とお願いしようと口を開きかけたところで、充さんの方が先に声をかけてきた。
「真奈美さん、ひとり?」
「え? ええ、ひとりです」
颯やバトラーが側にいないことを確認した充さんは、自分のセレクタリーに「十五分」とだけ告げると、海に面した柵を親指で指して「少しだけ話さない?」と微笑みかけてきた。
ヘリポート部分はパーティー会場のガーデンより端にあって高くなっているせいか、少し風が強い。
柵に凭れ掛かり風になびく髪を押さえていると、イブニングドレスで剥き出しになっている肩に、充さんが自分のジャケットを脱いで掛けてくれた。うわ、なんという紳士っぷり。
パーティーの喧騒が遠くに聞こえ、潮騒の方が耳に近い。柵の向こうは真っ暗な海で、クルーズ船から零れる灯りが海面をキラキラと照らしていた。
義兄とはいえ元婚約者と、こんなムードたっぷりの場所でふたりきりになっていていいものだろうか。
そんなことを考えてちょっと戸惑っていると、ふいに「マナちゃん」などと呼びかけられた。