旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
驚いて隣を見やると、充さんは実にリラックスした様子で屈託ない笑みを浮かべている。
「覚えて……ないよな。十五年前だし。あのときは真奈美さん小っちゃかったから、俺『マナちゃん』って呼んでたんだよ。まあ、それから会ってなかったし、手紙のやり取りでもいつの間にか『真奈美さん』になっちゃったけど」
「そうでしたっけ……。ごめんなさい、私覚えてなくて」
なんだか口調もずっと砕けているように感じる。他に誰も人がいないから? もしかして素の充さんって、結構屈託ない人なのだろうか。
少し驚いていると、充さんは柵に肘をつき頬杖をついて海を眺めながら言った。
「なんか色々ごめんな、マナちゃんのことも振り回しちゃって」
きっと、充さんが継承権を放棄して婚約が破棄になったあげく颯に嫁ぐことになったことを言ってるのだろう。
確かに滅茶苦茶振り回された感は否めないけど、別に充さんが謝ることではないと思う。
彼は身体上の理由で次期総会長の座を辞退したと聞いている。本人にもどうにもならないことだし、何より長年後継者として育てられながらその期待に応えられなくて一番悔しい思いをしているのは充さんのはずだ。
彼が悪く思う必要なんか、これっぽっちもない。
「謝らないでください。充さんのせいじゃないんですから」
それに……こう言っては何だけど、私は颯の婚約者になれて良かったと思ってる。初恋の相手が旦那様だなんて最高に幸せだし、何より私はやっぱ颯のことが好きだ。正真正銘惚れている。
だからなおさら充さんに罪悪感を覚えて欲しくないと思って否定したけれど、彼はものすごく困ったような、けれどもどこか悪戯っぽさも含んだような笑みを浮かべて、海風に乱れる前髪を掻き上げていた。