旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
 
私が『信じられない』という顔をしていると、充さんはすごく楽し気に「あー、じゃあこれ言っちゃおうかなー。でも颯に怒られっかなー」などと独り言のように呟いてニヤニヤした。

そしてクスクスと肩を揺らしながら私の方を見ると、驚くべきことを言い出した。

「十五年前の顔合わせでさ、マナちゃん、颯と遊んだの覚えてる?」

「え? 颯と?」

十五年前、私と充さんの婚約が決まったときに両家の顔合わせがホテルで行われた。食事会と歓談だったらしいけれど、当時七歳の子供だった私は婚約の意味もよく理解しておらず、六つ年上の充さんにも興味を示さなかったらしい。

食事を終えるとさっさとホテルの園庭に遊びに行ってしまったと、大きくなってから藤波に聞いた。

そのときのことはほとんど覚えていないのだけど……颯ってあのときいたっけ?

一生懸命に記憶の糸を手繰り寄せるけれど、幼い頃の颯の姿は浮かんでこない。

首を傾げて考え込む私を、充さんは可笑しそうに笑って見ている。

「じゃあヒント。庭園でマナちゃんと一緒に木登りして泣いてた、すげーデブの男の子は誰でしょう?」

「――え?」

充さんのその言葉で、私の記憶の蓋が開いた。

――十五年前のあの日。五月。快晴。おごそかな和風庭園。鯉の泳ぐおっきな池とどこまでも続く飛石の道。見上げるほど立派な松の木。そして、はち切れそうにまん丸な後ろ姿――。
 
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