旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
食事会自体は非常につまらなかったことと、こっぴどく叱られたことで、私はその出来事を今日まですっかりと忘れていた。
ましてやその男の子が婚約者の弟だったなんて思ってもいなかったのだ。……いや、よくよく思い出せば、食事会の席の隅に丸っこいのがいたような気もするけれど、一刻も早く外に行きたいとソワソワしていた私の視界には入っていなかったのだろう。
しかしまさか、あの子熊みたいな少年が颯だったなんて……嘘でしょ?
「でもさ、あの日からあいつ変わったんだよ。毎日手放さなかったジャンク菓子食べなくなって、大嫌いだった運動も積極的にするようになったって」
「へ?」
充さんが楽しそうに話すその後の顛末に、私は不思議そうに小首を傾げた。
「マナちゃんも分かってると思うけど、あいつ昔っから俺に劣等感持っててさ。でも子供の頃はそれがひねくれちゃって、『どーせ俺なんか』って感じで、偏食したり部屋に閉じこもってゲーム三昧だっり、いじけた生活してたんだよ。……それが、あの日から一変した。周りが驚くぐらい努力家になって、あっという間に痩せたしスポーツも万能になったし、勉強は元々得意だったけど、さらに成績も上がってさ。親父もおふくろもみんなびっくりしたよ」
懐かしそうに語られたその話に、胸が切なく疼いた。
もしかして、まさか。そんな気持ちが身体の奥でドキドキと音をたてている。
「絶対に“一番”になりたい理由が、出来たんだと思うよ。颯に」
吹き抜けた海風と共に私の耳に届いたその言葉に、愛しさとか切なさとか幸せとかいっぱい入り混じった気持ちが胸の奥から溢れ出た。