旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
この期に及んでまだ肝心なことを伝えてくれない颯に、私は刹那落胆する。
どうして……、どうして、たった一言『好きだ』と伝えてくれないんだろう。
颯の口から本当の想いが聞きたい。そうじゃなくちゃ私はいつまでたっても颯の胸に素直に飛び込めない。颯の気持ちが分からない、不安な迷子のままだ。
もどかしくて悔しくて切なくて、涙が浮かびそうになったときだった。
「ねえ、マナちゃん。マナちゃんの“一番”って、だーれ?」
後ろから充さんが、小さな声で問いかけてきた。
そのとても単純な問いに、私はハッとさせられる。
――あ、そうか……。
「……私の一番は……」
自分の気持ちを確かめるように呟くと、私は颯の手を取って走り出した。
戸惑う颯の手を引き、驚く人達の間を走り抜けて、パーティー会場のガーデンへと戻る。そして、景観として植えられているオリーブの樹の中から一番大きなものの前に行くと、履いていたハイヒールを脱ぎ捨てた。
「真奈美? ……って、おい!」
ドレープの美しい長いドレスの裾を腿まで持ち上げて結び、私は驚愕する颯の声を無視して、オリーブの樹に登っていく。樹肌がゴツゴツしていてストッキングはすぐに伝線したけれど、おかげで滑りにくく、私はあっという間に自分の身長より上にある幹の分かれ目まで登れた。
「降りろ! 危ないだろ!」
私を見上げて、颯が叫ぶ。周囲はすぐに人だかりができて、マスコミとカメラマンまで寄ってきた。少し離れたところで誰か卒倒したようだけれど、おじいか藤波じゃないことを祈る。