旦那様は、イジワル御曹司~華麗なる政略結婚!~
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「あ~落ち着く~……」
でっかい安堵の溜息を吐き出しながら、私は秘蔵のラムネグミをじっくりと噛みしめた。安っぽい甘さがジワジワと疲れた身体と神経に染みこんでいく気がする。
無事に結城家の方々との顔合わせを終えた私たちは、ふたりの住居であるホテルに戻り、ようやく一息つくことが出来た。
ドレスを着替えるのもそこそこに、すっかり馴染んだチェスターフィールドソファに思いっきり身体をもたれかけさせ、ラムネグミを堪能する。
そんな私を見やって苦笑を零しながら、颯はディナージャケットを脱ぎネクタイを外した。
「そんなに緊張したのか?」
「緊張っていうか、さっきも言ったけど颯の家って現実感ないよね。中世の王城か童話の世界に行ったみたい。ラムネグミがようやく私を現実に戻してくれた気がする」
こちらの話を聞きながら颯は「そうか?」と不思議そうに小首を傾げたけれど、すぐに口元にゆるい弧を浮かべると、なんと手を伸ばし私の頭を撫でてきた。
「まあ、慣れない場所に行くのはさすがのお前だって疲れるよな。おつかれさん」
「は、はあ。どうも……」
セットした髪を崩さないようにフワフワと優しく撫でる颯の手。その感触を全身全霊で感じながら、私はひきつった顔を密かに赤らめた。