先生、俺を見て(仮)
◇
数日後―――
大学からの帰り道。
「うっわ、このお肉やすっなんで!?」
蛍は、近所のスーパーで特売の安すぎるお肉に目を剝いていた。
「今日は♪すっき焼き♪おっいしいお肉♪」
今日は久しぶりに大学での研究が早く終わった。塾のバイトもない。
唯一の楽しみである料理が出来る!
すっかりるんるん気分になった蛍はスキップでもしそうな勢いで帰路のついていた。
マンションに向かってまっすぐに帰る。
「すっかり寒くなってきたなあ...もうすぐ冬かあ」
秋の香りを感じながら帰っていると、
「ちょっと待ってよ!ねえ結城くん!!!」
「...離せ」
「いやっ離さない!!!頷いてくれるまで離さない!!」
建物の前で言い争っている男女を発見してしまった。
と言うか蛍のマンションのエントランスの真ん前でやってるから発見するも何も、嫌が応にも目に入ってしまう。
(嘘...なによ修羅場?てかうちのマンションの前でやんないでよお、帰れないじゃないっ)
電柱の陰から様子をうかがう。
制服を着ているから見るからに学生。どうやら近場の高校のようだ。
痴話げんか、というよりは女子が一方的に怒鳴っている感じ。
男子の方は...と目を凝らすと、何やら見覚えがある顔。
(って、あれ!!!颯くんじゃ...!!!)
間違いない。
あんの不愛想な、その上ちょー迷惑そうな表情は間違いない!
颯だ。
「お願い!明日一日だけ付き合ってくれたらいいのっ!」
「しつこい...無理だって言ってるだろう」
「お願いッ!!」
(何よ何よ、デートのお誘い!?ってかしつこいって...何だあいつ!断るの!?なによ最近の若い子は...!)
蛍がひとり、電信柱の裏でやきもきしていると、
「...あ、」
「......げ」
ばちり
と、颯と蛍の目が合った。