先生、俺を見て(仮)
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それはつい一週間ほど前の出来事
今年の春に越してきたばかりのマンション
場所は八階の角部屋。1LDKのデザイナーズマンションで間取りもデザインも申し分ない良物件だ。
そこに住み始めて半年が過ぎた秋中頃
蛍はちょっとばかり寝坊してしまい、急いでいた。
漫画でよく描かれるようにパンを口に加え、メイクもそこそこに部屋を飛び出した。
その時
同じように隣の部屋からただならぬ様子で人が飛び出した。
思わず蛍は見てしまう。
何故なら、隣の部屋の住人をこの半年目にしたことがなかったから。
その住人はぼさぼさの髪のまま、蛍と同じようにパンをくわえ、焦ったように鍵をかけている。
なにより目を奪ったのは真っ黒な学ラン。
(え...学生?)
ここは一人暮らしに十分な広さだが、家族など複数で住むには狭すぎる。
だとすれば、学生が一人暮らししているということになる。
(そんな人、本当にいるんだ...家庭の事情かな...)
普段から塾で働き、学生と多く触れ合っているためかその時のことがやけに気になって、自分の部屋の鍵を閉めるのも忘れてその男子学生をじっと見つめてしまっていた。
ガチャっと鍵が閉まる音で、はっと我に返る。
そして気づく。
目の前の男子が物凄く不審そうな目で蛍を見ているのを。
まるで生ゴミを見るような目。
慌てて逸らすと、その男子は何も言うことなく、その場を駆け足で離れていった。
(うわっやば...絶対変人みたいに思われてる)
たぶん。
いや確実に。
寝坊した上に、初めて会った隣人に最悪の印象を植え付けてしまうなんて。
ついてなさすぎる。
蛍は大きくため息をついた。
結局その日、学校には遅刻した。