才川夫妻の恋愛事情
午後八時。
再プレゼンに向けた打ち合わせが終わりデスクに戻ると、二課には往訪から戻った先輩たちもいて、八時だというのにお昼間よりも人が増えていた。
「野波、分担しましょう。さっき決まった追加提案する媒体だけど、屋外広告の分だけ媒体担当に振り出しお願いできる?」
「はい」
「私は他の振り出しをするとして……。あ、あとさっき言ってたクリエイティブ案。電車のステッカー広告のやつ。私もいいと思うから、一度スライド一枚にまとめてみて。それは別に今日じゃなくて構わないから」
「わかりました」
案を褒められたことが密かに嬉しくて、にやけそうな口元をごまかしながらパソコンのスクリーンセーバーを解除する。するとそのタイミングで、また別の打ち合わせを終えたらしい才川さんが戻ってきた。
あからさまに振り向くことはしないけれど、思いっきり背中のほうを意識する。がさっと資料をデスクに降ろす音。それから小さなため息が二つ。
そして、小さな笑い声が、
二つ。
「やばいな。全然手ぇつけてない」
「ほんとに。共有フォルダに入れてあった資料が最新ですよね? 30%完成ってとこでしょうか」
「良い読みだな。そんなとこだよ」
軽やかな会話に耳を澄ます。花村さんが〝30%〟って言ったことから察するに、きっとこの後の作業も夜深くまで続くだろうに、少しだけ楽しそう。