才川夫妻の恋愛事情
「とりあえず私、資料室行ってきますね」
「え?」
才川さんの少し驚いた声に振り向いてしまった。戻ってきたところで立ちっぱなしだった才川さんが、椅子から立ちあがったところの花村さんを身長差で見下ろしている。
気付けば二人に目を向けていたのは私だけではなかった。二課全体が少し、二人を意識し始めていた。
花村さんは不思議そうな顔をして才川さんを見つめ返す。
「え?」
「いや、なんで資料室……と思って」
「だって、必要ですよね? 大昔の新聞原稿。今の社長が現場だった頃につくった新聞広告、資料の中に入れるんでしょう?」
「あぁ、うん……」
「その頃の広告素材ってもう、電子データベースにも格納されてないし。資料室には全国紙の縮刷版が大昔の分まであるはずなんで、探せばきっと見つかります」
「……うん。でも俺、そんなの今作ってる資料には一言も書いてないよな」
「え?」
え。じゃあ伝えてないのに花村さんが先読みしたの?
周りの人が同じ疑問を持ったことが手に取るようにわかった。
これが、才川夫妻と呼ばれる由縁。
「花村さんさぁ」