才川夫妻の恋愛事情



「……結婚指輪ももらってない」

「うん」

「ベッドも別々だし」

「うん」

「何回もダブルベッドがいいって言ってるのに」

「なかなか諦めないよなお前」

「お風呂も一緒に入ってくれないでしょ」

「それもなかなか諦めないよな……」

「言い続けたらいつか間違って〝うん〟って言わないかなって」

「言わないだろ。言っても間違いは間違いだから入らないだろ」

「うーん……」



おかしい。

真面目に話しているつもりなのにどうにも冗談ぽさが拭えない。



これじゃいけないと思い、話題にあげるかどうか迷っていた一言を投げ入れる。



「離婚届」

「……」

「極めつけは、それです」



その一言で少しだけ、本当に少しだけ、才川くんの表情が固くなる。結婚記念日目前に彼の引き出しから見つかったその紙は、彼にとっても記憶に新しいはずだ。

微妙な変化を読み取るようにして、私は視線をそらさない。



「…………そうだな」



才川くんは肩を落として深く息をついた。



「そうやって聴くと、なかなか酷い夫婦だよな俺たち。……っていうか、俺が酷い夫なのか」

「……」

「それでみつきは、何? やっぱり別れたい?」



< 167 / 319 >

この作品をシェア

pagetop