才川夫妻の恋愛事情
「……結婚指輪ももらってない」
「うん」
「ベッドも別々だし」
「うん」
「何回もダブルベッドがいいって言ってるのに」
「なかなか諦めないよなお前」
「お風呂も一緒に入ってくれないでしょ」
「それもなかなか諦めないよな……」
「言い続けたらいつか間違って〝うん〟って言わないかなって」
「言わないだろ。言っても間違いは間違いだから入らないだろ」
「うーん……」
おかしい。
真面目に話しているつもりなのにどうにも冗談ぽさが拭えない。
これじゃいけないと思い、話題にあげるかどうか迷っていた一言を投げ入れる。
「離婚届」
「……」
「極めつけは、それです」
その一言で少しだけ、本当に少しだけ、才川くんの表情が固くなる。結婚記念日目前に彼の引き出しから見つかったその紙は、彼にとっても記憶に新しいはずだ。
微妙な変化を読み取るようにして、私は視線をそらさない。
「…………そうだな」
才川くんは肩を落として深く息をついた。
「そうやって聴くと、なかなか酷い夫婦だよな俺たち。……っていうか、俺が酷い夫なのか」
「……」
「それでみつきは、何? やっぱり別れたい?」