才川夫妻の恋愛事情
〝別れる〟という単語は鋭利に尖って心をかすめていく。才川くんの口から発せられてその言葉は、何倍にも何百倍にも研ぎ澄まされて痛かった。目と鼻の奥がツンとして、気を抜くとぽろっと泣いてしまうかと思うほど。
でも何の意味もない。
自分の膝の上に置いていた両手をきゅっと強く握った。伝えるべき言葉を頭の中で選りすぐって、開いた口から声にする。
「……だって、離婚届ですよ?」
「うん」
「そんなの普通〝もう気持ちがないのかな〟って疑うし、信じろっていうほうが難しいでしょ」
「……うん」
「でも少しも疑えなかった」
「…………え?」
〝別れたい?〟って訊く言葉も、
離婚届も、
意味がない。
「……私ね、才川くん。少しも疑えなかった。自分でもびっくりしたの。旦那さんが離婚届なんて持ってたのにね、すごく自信があった。才川くんきっと」
「私に惚れてるでしょう?」