才川夫妻の恋愛事情
そして決着の日はやってきて、四月一日。
もしかしたら彼は有耶無耶にするつもりなのかもしれない。
いつもと変わらない横顔で仕事をする彼を覗き見ながら、そんなことを思っていた。それならそれでいいのかな、とも。
結婚記念日をスルーしてしまった私たちは、あれから数日間、一度も離婚届のことを話題に出さずにきた。
結局何かの間違いかもしれないしね! 人からの預かりモノとか。誰かに〝代りに市役所行ってもらってきて〟って頼まれたとか。……ないな。あまりに納得感がないし、あれは間違いなく彼が自分でもらってきたものなんだろう。でも印鑑を寄越せと言ってくる気配もないし、離婚届を市役所に持って行った様子もないし……。
「……なに、花村さん。人のこと見つめすぎじゃない?」
おっと。
横顔を覗き見していたつもりが、考えすぎていつの間にかガン見していたようです。
私は反射的にありったけの愛嬌で笑いかけた。
「ごめんなさい。見惚れちゃって」
「なにそれ、嬉しい」
「何時間でも見つめていられそうですよ」
「花村さんに見つめられてたら緊張で仕事にならない」
「穴開けてあげますー」
芝居に乗って甘く笑う彼ににこにこと微笑み返す。いつもより甘さ三割増しの返答をして席から立ち上がった。お昼の十一時。部長が昼食に出る前にタバコを一服してコーヒーを飲みたがる時間だ。
「部長にコーヒー淹れてきますね。才川くんも飲みます?」
「いや、大丈夫。ありがとう」