才川夫妻の恋愛事情
「どちらまで?」
初老の運転手さんの問いかけに、私はお決まりの返事をする。
「このまましばらくまっすぐ走ってもらって、五反田のほうに」
「五反田は反対方向ですよ?」
「大丈夫です。少しだけ進んだら引き返してください」
「はぁ……」
不思議そうに首を傾げる運転手さんに、ややこしいこと言ってごめんなさい、と心の中で謝って。私は深くシートに沈み込んだ。
疲れた。
まずいなぁとは思っていたけれど、まさかあんなキスをされるとは。
「……」
唇に指で触れる。リップグロスはすっかりとれてしまっている。
久しぶりのキスに、ドキドキしなかった、と言えば嘘だ。
今晩の彼はどうだろう??
期待と不安に揉まれながら、私は彼の部屋を目指した。