才川夫妻の恋愛事情



言われなくとも着替えに行きますけど? 名残惜しいって言っても、またすぐ隣の席で仕事じゃないですか……。なんだかとても不思議なことを言われた気がして、首を傾げながら才川くんの背中を見送った。



「……新婚こわい。二人の世界すぎてこわい」



完全に放置していた竹島くんが隣でぼやく。ごめん、私も本当に忘れていました。

誤魔化すように笑いかける。



「もうちょっと自制してくれると、助かるんだけどね……」

「しっかりしろよ。サポートだけじゃなくて旦那の手綱握るのもこれからはお前の仕事だぞ」

「うーん……」



それは六年間無理だったから無理なんじゃないかなぁ、と心の中で返事する。家ではドライな才川くんを前に、いつだって私はされるがままの降伏状態だ。だけど竹島くんが、夫絶対優位な私たちの夫婦関係を知るはずもないか。

とりあえず〝善処します〟と実のない返事をしようとしたら、竹島くんが先に言った。



「でもまぁ、無理か。その様子じゃ」

「え?」

「痕つけられてんぞ、首の後ろ」

「……はぁ!?」

「お前の旦那様はこわいな……」

「っ……!」

「やだやだ、急に生々しくなって」



〝新婚こえー〟とわざとらしく大きな声でぼやきながら、竹島くんは喫煙スペースに行ってしまう。一人残された私は首の後ろを手のひらで押さえながら、見える場所についているらしいソレに困った。〝つけて〟と強要されたことはあったけれど、見えて困る場所につけられたことは今までなかったのだ。……こんな初めてはいらない!



多すぎる夫の変化に戸惑いながら、私ははっと時間がないことに気付いて更衣室へと急いだ。


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