才川夫妻の恋愛事情
デスクに戻る頃には彼は新聞チェックを終え、電卓を叩きながら見積りを作っていた。それはいつもなら私がお願いされる仕事。力が抜けるようにため息をつく。
「……才川くん」
「ん?」
呼ぶと振り返った彼の顔は、何も他意がなさそうで憎らしい。私は椅子に座りながらいつものトーンで話す。
「知ってたでしょ」
「……あぁ。補佐はずれるって話? 昨日、聞かされてたよ」
そう言った才川くんが体ごとこちらに向ける気配がして、私は自然と彼のほうを向く。細長い指先が伸びてきていた。
「ほんとは片時も離したくないけど」
くるりと、彼の指先が私の横の髪を一房、もてあそぶ。
「仕事だから、仕方ないな」
そして、ゆっくりと指先は剥がされていった。惜しがる言葉とは裏腹に余裕な笑顔。まるで自分はまったく平気、みたいな。
「今までありがとう、花村さん」
これが、才川夫妻、
お別れの挨拶でした。