才川夫妻の恋愛事情
「ごめん花村さん、声小さくてよく聴こえない」
「なんでもありません」
聴こえてるくせに。大きい声で言えないようなことだからぼそっと言ったのに!
家でなら迷わず口に出せる抗議を、ぐぐっと口の中に押し込んでしまうあたり、私も外では〝花村さん〟なのだ。長い時間をかけて叩き込まれた関係性を、それはもうきっちりと。訓練された犬のように忠実に守っている。
私たちは大学卒業と同時に夫婦になった。
「……なんでこんなことになったんでしょうね? 六年も前に結婚したのになんで未だに〝夫婦みたーい♡〟なんて冷やかされてるんでしょう……」
「なに。俺と夫婦みたいって言われるのそんなに嫌? 傷つくなぁ」
言いながら彼は、お蕎麦を食べるのに邪魔だと思ったのかネクタイを緩めて解き、背もたれにかけた。私は彼の溺愛キャラ仕様のセリフを華麗にスルーして言葉を続ける。
「知ってます? 私たち色んな人に〝もうそろそろ籍入れたらどうだ〟って言われ続けて数年経ってるんですよ。……とっくに入れてるわ! っていつこの口が勝手に言ってしまうか不安で、私……」
「社内秘のことは外でべらべら喋るもんじゃないよ、花村さん」
「……」
「誰が聴いてるかわかんないからね」
「なんでもありません」
聴こえてるくせに。大きい声で言えないようなことだからぼそっと言ったのに!
家でなら迷わず口に出せる抗議を、ぐぐっと口の中に押し込んでしまうあたり、私も外では〝花村さん〟なのだ。長い時間をかけて叩き込まれた関係性を、それはもうきっちりと。訓練された犬のように忠実に守っている。
私たちは大学卒業と同時に夫婦になった。
「……なんでこんなことになったんでしょうね? 六年も前に結婚したのになんで未だに〝夫婦みたーい♡〟なんて冷やかされてるんでしょう……」
「なに。俺と夫婦みたいって言われるのそんなに嫌? 傷つくなぁ」
言いながら彼は、お蕎麦を食べるのに邪魔だと思ったのかネクタイを緩めて解き、背もたれにかけた。私は彼の溺愛キャラ仕様のセリフを華麗にスルーして言葉を続ける。
「知ってます? 私たち色んな人に〝もうそろそろ籍入れたらどうだ〟って言われ続けて数年経ってるんですよ。……とっくに入れてるわ! っていつこの口が勝手に言ってしまうか不安で、私……」
「社内秘のことは外でべらべら喋るもんじゃないよ、花村さん」
「……」
「誰が聴いてるかわかんないからね」