才川夫妻の恋愛事情

「あぁ、いや、うん……」



言葉を濁した才川くんはちらりと振り返って私の顔を見た。何その窺うような顔。

……やればいいんでしょう! やればっ!



ヤケクソになってにこりと微笑んで見せる。才川くんの首にぶら下がるネクタイを思い切り引っ張って自分のほうに引き寄せた。



唇が触れるんじゃないかと思うほどの至近距離。





「浮気はイヤですよ、才川くん」





間近にある顔は、少しも驚いてなんかいない。そりゃそうだ。彼がこうしろって私に指示したんだから。いっそ本当にキスでもすれば、彼は動揺するんだろうか?

……しないなぁ。きっとその気になったフリで、また舌を入れられてしまうんだろう。見えた。



「やだなー、浮気なんてするわけないだろ? 花村さんというものがありながら」



才川くんはおどけて笑う。冷汗も演技。一体どれだけ役者なの……。



「私はものじゃありません」



ネクタイをきりきりと引っ張る。
才川くんはされるがままでいながら、片手を上げた。合コン大好き男に向かって宣言する。



「ごめん、俺今日無理だわ。花村さんストップかかったから行けないってみんなに言っといて」

「うぃっす……」



……なーにが花村さんストップだ。行く気がないなら最初からちゃんと断っといてくれればいいのに!

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