才川夫妻の恋愛事情
こんな小芝居、ほんとに必要なんだろうか。しかしそのまま疑問をぶつけると才川くんは〝普通に断ったら角が立つだろ〟となんだかそれらしいことを言って私を説得した。男の人の気にするメンツってよくわからない、と思いながら、結局私は渋々請け負ってしまったのだ。
才川くんは付き合ってもないはずの私を言い訳に今晩の合コンを断った。役目は終わった。私はぱっと彼のネクタイから手を離してデスクに戻る。
結婚してる、ってちゃんと周りに言えていたら、そもそもこんな芝居は必要ない。
「そんな怒んないでよ、花村さん」
人の気も知らないで。……いや、たぶん知っていながら。才川くんはまるで焼きもちを焼く彼女をなだめるかのように甘い声を私にかけた。それがまた私の神経を逆なでる。
「別に怒ってないですよ? 言ってみただけなので。本当に行きたいんなら行っていただいても大丈夫です」
嘘だ。ほんとはちょっと怒っていた。私にこんな恥ずかしい芝居を打たせて体よく断る彼に。芝居を打たなければいけない状況に。――そんなにメンツが大事なら、合コンでもなんでも行けばいい。そんなとがった気持ちで、だから〝行きたいんなら行っていただいても大丈夫です〟なんて嫌味を言って。
「花村」
背後から才川くんが私のデスクに手をつく。彼の体に覆われたようになる背中が、熱い。それは私にしか聴こえない、一瞬の耳打ちだった。
〝本当に行っていいの?〟