溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
 だったら、今朝、課長が電車に乗ってることはないような、と思ったら、昌磨は階数ボタンを押しながら、
「車は点検に出してたんだ。
 朝、ディーラーが出来上がったのを此処に届けてくれた」
と言う。

「あ、そうなんですか。
 じゃあ、いつもは電車じゃないんですね」

 それなら、もう電車で会うことはないのか、と寂しく思った。

 ……確認してみようかな、とちょっと思う。

 今朝、助けてくれたのは貴方ですかって。

 こっちが顔見えなかったから、向こうも見えなかったかもしれないけど。

 ああでも、万が一、違うとか言われたら、今更、やだなー。

 私はもう課長の手にメロメロなのに。

 ハンドルを握る課長の手。

 少し骨ばった関節が格好よかった、と拓海が聞いたら、莫迦じゃねえの、と言いそうなことをうっとりと思う。

「あのー」

 少し迷いながらも、花音はそうっと呼びかけてみた。

「今朝、電車ですっ転んだ私を助けてくれたのは、課長ですか?」

 そう言うと、昌磨は止まる。

 そのまま、反対側を向いた。

「……笑ってませんか?」

 いいや、と答える昌磨の声はくぐもっていた。

 なにやらリアルにすっ転ぶところを想像してしまったようだ。
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