溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
 白い鍵盤にこの長い指がなんとも……

 手を見たあとで、ふっと顔を見て、あれっ? と思う。

 頭の中で、ゴンドラに乗った見知らぬ男がカンツォーネを歌っていた。

 自分の中の勝手なイタリアのイメージだ。

 住んでいたはずなのに、貧弱。

 だが、問題はそこではない。

「……花音?」

 なんの不安を覚えたのか。
 社内なのに、昌磨がそう呼んでくる。

「ああ、すみません。
 失礼しま……」

 行きかけて、もう一度、振り返る。

 そのとき、花音の中で、パチリ、とピースがはまった感じがした。

 イタリア。

 ピアノ。

 そして、この顔。

 あの演奏。

「あーっ!」
と昌磨を指差し、叫ぶ。

 みんなが手を止め、顔を上げた。

「情熱の貴……っ!」

 むぐぐぐぐ……っ、と後は謎の叫びになってしまった。

 立ち上がった昌磨に口を押さえられたからだ。
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