溺愛御曹司の罠  〜これがハニートラップというやつですか?〜
「課長、イタリアに住んでたんですね」

「俺は祖母と一緒に暮らしてたから」

「課長、ハーフか、クォーターなんですか?」

「そう見えるか」
「いえ、全然」

 じゃあ、訊くな、と昌磨は言った。

 ハーフかクォーターなら、あそこまでイタリアで受けなかったかもな、と花音は思った。

 淡々とした表情の東洋の美しい少年が情熱的な演奏をしたから、話題になったのだ。

「祖母は日本人だ。
 単に、イタリア人の気質を好んで、あっちに住んでただけだ」

 今は日本に居ると言う。

「そうなんですかー。
 私もイタリアに居たんですよ」

「昨日聞いた」

「何処かですれ違ってたかもしれませんね。
 お店とか」

「……イタリアも広いぞ」
と呆れたように昌磨は言う。

 だが、そのくらいの妄想はいいではないか、と思っていた。

 ささやかな庶民の楽しみだ。

「誰にも話すなよ、その話」

 あの店の話も、と昌磨は言う。

「もちろんです」
と花音は機嫌よく答える。

 課長と二人だけの秘密ができた、と思ったのだ。
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