溺愛御曹司の罠 〜これがハニートラップというやつですか?〜
「ちょっと、なに機嫌いいのよ」
花音がトイレに入ると、また来るタイミングが同じだったらしい香穂が居て、化粧を直しながら、そう訊いてきた。
「ああ、江波さん。
今日、拓海に言っておきますねー」
と機嫌がいいまま言うと、
「香穂でいいわよ」
鏡を覗き込み、マスカラの塗り具合を確認しながら、香穂が言う。
「えっ。
ありがとうございます、香穂さん。
うわっ」
と花音は声を上げた。
えっ、なにっ? と香穂が振り向く。
洗面台に置いたポーチからあのマッチが落ちそうになったので、支えようとしたら、塗ろうとしていた口紅を落としてしまったのだ。
下向きに落下し、さっきポケットに入れていたので、体温で柔らかくなっていたのか、床に突き刺さる。
「いやーっ。
これ、もう塗りたくないですーっ」
「……貸してあげるから」
ね? と香穂が同情気味に肩を叩いてきた。