主任は私を逃がさない

「ねえ中山さん、溝口次長のことは気にしない方がいいよ。あの人は自分の役職を利用してストレス発散したいだけなんだからさ」


 みんな揃って大きくウンウン頷いている。

 なんと答えればいいやら困ったけれど、元気づけようとしてくれているその気持ちがとてもありがたい。

 黙って微笑む私の表情を見た花岡さんが、明るい声でみんなに提案した。

 
「そうだ! これから皆で飲みに行かないか!?」

「えー? 昨日も飲み会だったのにー?」

「昨日のは仕事だろ? 今日は仲間内で気楽に楽しむんだよ。みんな一緒に」

「……それもいいわね。中山さん、どう?」

「行こうよ、中山さん」


 やっぱりみんな私を励まそうとしてくれている。

 それを本当に嬉しく思う反面、史郎くんの事が頭をよぎった。

 彼は私がお酒を飲むのを好まないし、できれば彼が支店から戻ってくるのを待っていたい。

 でもせっかくの心遣いを断るのは気が引ける。どうしようか……。


 ワイワイ盛り上がる皆を見ながら悩んでいたら、正面玄関が開く音と同時に窓口の人の声が聞こえた。

「あ、西田主任お帰りなさい」

「ただいま戻りました」

 史郎くんの声が聞こえた瞬間、心臓がドッキンと跳ね上がる。

 ときめきと緊張が入り混じった複雑な動悸を抱えて、窓口前を足早に横切る史郎くんの姿を見つめた。

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