主任は私を逃がさない
「西田主任! お疲れ様っス!」
「ああ、お疲れ様。何か変わった事はなかったか?」
「順調っス! これからみんなで飲みに行く事になったんですけど主任もぜひ!」
花岡さんの威勢の良いお誘いに、史郎くんは首を横に振る。
「残念だが俺は不参加。今すぐ常務の所に行かなきゃならないんだ」
「……え? まさかそれって今朝の件ですか?」
「多分そうだろうな。次長が上に報告したらしい」
みんなの表情がサッと曇り、私も顔を引き攣らせた。
恐れていた事態に血の気が引いて、全身に薄っすらと冷や汗が滲んでくる。
ああ、やっぱりあのままじゃ済まなかった! 私のせいだ。史郎くんがクビになったらどうしよう!
「おいおい、そんな戦地に赴く兵隊を見るような目をするなよ。大げさだな」
おどけた声でそう言って、史郎くんは笑いながら皆の顔を見回す。
そして今にも泣きそうになっている私の表情に目をとめて、ひときわ優しくニコリと微笑んだ。
「心配ないよ。じゃあ急いでるから」
気楽な調子でヒョイと片手を上げ、彼は軽快に階段をのぼって行く。
その背中を私は慌てて追いかけた。
このまま黙って見送るわけにはいかない! 誰かのクビが必要なら、それは私のクビであるべきだ!