主任は私を逃がさない
「飲み会に行ってもいいんですか? 私」
「当たり前だろ? 楽しんでこい」
「でも主任がこんな事になっているのに、私ひとりで行くわけにはいきません」
「おい、なんでさっきからそう、俺がクビになるって確信してるんだよお前は。そんな簡単にクビになるわけないだろ?」
ちょっと呆れた顔をして史郎くんは言った。
「ここでお前が『行くわけにはいかない』なんて強情張ったら、せっかくのみんなの気持ちを無にする事になるぞ?」
「…………」
「いいから行け。でもハメは外すなよ? 今日のところは飲んでも一杯にしておけ」
ニヤリと笑って、史郎くんは片目をキュッと瞑った。
「本当に俺のことなら心配しなくて大丈夫だよ。じゃあな」
そう言って階段を駆け上がっていく姿を、私は唇を強く結びながら見上げていた。
思考の全てを持っていかれてしまったように、何も考えられない。
史郎くんのこと以外は。
こんなに私を守ってくれる彼への感謝と、自分ではどうしようもないほど彼に惹かれてしまう気持ち以外は。
「中山さん、主任が言っている通り大丈夫だよ」
「だって優秀な西田主任をクビになんかしないわよ。そんな勿体ない」
「そうそう。次長の自己チューな言い分と主任の営業能力を秤にかけたら、誰だって主任を選ぶって」
「さ、一緒に飲みに行こう! 元気出して!」
同僚たちが私の背中を押してロッカールームへ同行してくれる。
泣きたいほどいっぱいいっぱいな気持ちを抱えながら、私は何度も頷いた。