主任は私を逃がさない

 飲み会の場所は、繁華街にある居酒屋だった。

 和風情緒漂う格子戸を抜けるとすぐ、長いカウンターや掘りごたつのお座敷が見える。

 すでに店内は会社帰りの社会人たちや、大学生らしきグループといった大勢のお客さん達でガヤガヤと賑わっていた。

 空いている座敷に案内された私達は、さっそく宴を開始する。


「さあさあ中山さん、なに飲む?」

 なんだかワクワクしている花岡さんにメニュー表を渡され、私は興味津々に見入った。

 ふうん、色んな飲み物があるのね。ええと、じゃあ私は……。


「バナナ牛乳」

「………」

「あ、えっと、今日ちょっと食欲無くてあんまり食べてないから、軽く栄養補給を……」

「せっかく居酒屋に来たんだからお酒に初チャレンジしようよー。中山さんー」

「ちょっと花岡君、無理にアルコールを勧めたりしないの。いいから好きなの注文しなさい、中山さん」


 同じ課の超ベテランお局様に諌められた花岡さんは素直に「ハイ」と引っ込んだ。

 史郎くんはああ言ってくれたけれど彼の事が気がかりで、やっぱりアルコールを飲むのはちょっと抵抗がある。

 だから私は焼き鳥や空揚げや卵焼きなんかをつまみながらバナナ牛乳を飲み、しみじみと周りの様子を観察していた。

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