主任は私を逃がさない
みんな急ピッチでお酒を飲み、食べ、あっという間に酔いが回っている。
上司やお客さんの愚痴を言い合ったり、大声でケタケタ笑い出したり、すっかり砕けた雰囲気だ。
すごく楽しそうだけど、なんだか想像していたのとはちょっと違う。
私はお酒を飲むという行為を、なんというか、ひとつの大きなハードルのように気構えて考えていた。
大人という果てしないゴールに近づくための、とても有効な通過ポイントみたいな。
だけど今こうして居酒屋に来て、その気になればいつでもお酒が飲める状況になって、思っていたのとは何かが違う気がしている。
バナナ牛乳のグラスを握りしめながら、この違和感は何だろうと真剣に考えて思い出した。
ああ、そうだ。あの感覚。
変身して初めて出社した時に感じた、あの空回りしている感覚にソックリなんだ……。
「中山さーん。ボーッとしてどうしちゃったの? あ、分かった! やっぱりお酒に挑戦したいんだろ!?」
「あ、ううん。私ちょっとお手洗いに行ってくる」
自分のビールを強引に押し付けてくる花岡さんから逃れて、そそくさとトイレに立った。
そろそろメイクも直さないと。手の込んだメイクはどうしても崩れやすいから注意が必要だ。
『崩れたメイクをそのまま放っておいたりしたら即刻、大人の女性失格よ!』
って友恵にも口を酸っぱくして言われているし。