主任は私を逃がさない
トイレは結構広いスペースで、白い洗面台が3つ並んでいる。
ちょうど誰もいなかったからド真ん中の洗面台の前に陣取り、鏡に映る自分と睨めっこ。
バッグから化粧ポーチを取り出したところで私の手の動きが止まった。
……私、なにやってるんだろう。
こうして誰にも反対されることなく飲み会に参加して、綺麗にメイクして、素敵な服を着て。
もちろんそれは全部、私がずっと憧れていたことだけど。
私がすべき事って、こういう事? これが私が目指す『大人の女性』になるための必要条件?
このポーチの中のメイク用品や、お財布をカラッポにして買った服や、おつまみと一緒に飲むビールやサワーが?
ずっと胸の中に感じ続けている違和感が、これまでにないほど強く渦巻いている。
なのに、それに対する答えが見つからない。
すっきりしない気持ちのままではメイクを直す気にもなれず、私はポーチをバッグの中に戻してそのままトイレから出てしまった。
ハァ、メイク崩れ放置しちゃった。これじゃ大人の女性失格かなあ……。
「……あれ? ひょっとして陽菜ちゃん?」
座敷に向かって歩き出したところで、ちょうど男子トイレから出て来た人に声をかけられた。
振り向いた私は目を丸くして立ち尽くしてしまう。
「松本……さん……?」