主任は私を逃がさない
「あの時は史郎くんが、やれ勝ちだの負けだの面目丸潰れだのって、さも誇らしげに言い出したから!」
「そりゃそうだろ? ガキの頃から初志貫徹して、やっとこさ婚約までこぎつけて、なのにここで婚約破棄なんかされてみろ。俺の二十数年間の人生はどうなる」
「じ、人生って……」
「お前の心を手に入れる為に本気の勝負に出たんだ。それに勝ったと思ったんだから喜んで当然だろうが」
「あぁ……」
としか、声が出てこない。
そ、そういう意味だったの? それならそうと丁寧に解説してくれれば問題はなかったのに。
「それに史郎くん、管理不行き届きで自分の株が下がるのはゴメンだとか……」
「陽菜のご両親の機嫌を損ねるのは絶対にゴメンだ。俺はこの家の婿養子に入るつもりだからな」
「婿養子ぃ?」
「いくら近所でも、ご両親が陽菜を嫁に出すわけがないだろ? その点俺は男四人兄弟の下から二番目だから自由がきくんだ」
「…………」
「マスオさんってのは気ぃ遣うんだぞ? どんな些細なことでも義両親の機嫌を損ねたりしたら死活問題に発展する」
……もう、声も、出てこない……。
じゃ、なにか? あれは上司へのゴマすりの為に私を利用したって意味じゃなくて、単に今後の人生設計についての発言だったわけ?
ああ、ホントにあんまりよ神様。