主任は私を逃がさない

「松本のこと、正直ショックだった。だから対抗心みたいなのがあって、一刻も早くお前の身も心も俺のものにしてしまいたかったんだ」


 史郎くんが、悔いているような声で囁く。


「松本と俺が同じだってお前に言われた時、頭を殴られたような気がした。確かにそうだよな。そんな理由で結ばれちゃダメなんだ」

「史郎くん、ごめんなさい」

「なにが?」

「ごめんなさい……」


 私の心に強い後悔の念が込み上げる。

 史郎くんに私の初めてを捧げたかった。

 どうしてあんな人に、あんな形で私の初めては奪われてしまったんだろう。

 やっぱり私はこの先一生、今さら取り返しのつかない過去の出来事を悔い続けることになるんだ。

 時間が巻き戻せるものなら、この手で無理やりにでも手繰り寄せて過去を無かった事にしてしまいたい。


「陽菜、それは関係ない」

 短い謝罪の言葉だけで、私の悔恨の全てを読み取ったらしい史郎くんがキュッと抱きしめてくれる。


「松本と出会う前のお前も、出会った後のお前も、俺は変わらずこんなに愛してる。だからそんな些細な事実は何の影響も、関係も無いんだ」

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