主任は私を逃がさない
「どうだ? うまいだろ?」
史郎くんの得意気な声にハッと我に返った。
気がつけば夢中になって食べまくり、マナーもなにもすっ飛ばしてしまっている。
しまった。食い気に引きずられてしまった。これでまた減点?
顔を強張らせて箸の動きを止めてしまった私の心を読んだように、史郎くんが笑った。
「陽菜、小さいころから食いしん坊だったからな。遠慮なんかしないで思う存分、この味を堪能しろ」
優しく微笑む彼の表情からは、なんの裏も感じられない。
勝負は関係なく、私に純粋に料理を味わってほしいと思っているのが伝わってくる。
安心した私は、上機嫌でお料理を褒め称えた。
「うん美味しい! お世辞じゃなく美味しい!」
「ここの店主は代々のツテがあるから、良い食材を農家から特別に安く回してもらえるんだよ。その歴史と信頼に応えるために、店主は決して仕事の手を抜かない」
史郎くんは厨房で忙しく働くお店の人たちを眺めている。
油や調味料のシミがついたエプロンや調理服を身に着けた彼らを見るその目には、敬意が込められていた。