主任は私を逃がさない

「ほう? つまり主任が、次長である私にポイントを恵んで下さる。という事ですか?」


 心持ち顎を浮かせた溝口次長が、いかにも含みのありそうな声を出す。

 父が一番可愛がっている最も優秀な部下に、『自分のポイントをお前にやる』と言われた事が、どうやらプライドに障ったらしい。

 丁寧口調がますます憎々しく、粘っこくなった。


「私は主任のポイントではなく、自身のポイントが欲しいという正当な要求をしているのですが、それがご理解いただけませんか?」

「それは勿論、理解しています」

「ならメーカーのキャンペーン担当者に話をつけて、あちらの電算課に説明して、データを打ち直してもらって、全部プリントし直してもらって、書類を作り直してもらって下さい」


 できないと分かっていて、無理なことを言う。

『ポイントが欲しいから』という理由だけでそんなご迷惑なお願いなんかできないし、聞き入れられるはずもないのは次長も重々承知のはずなのに。


「次長、なにぶん今回はご容赦下さい。この通りです」

 史郎くんが次長に向かって深々と頭を下げた。


「今後は二度とこのような事が起きないよう、指導を徹底します」

「そうですね。彼女はあなたの直属の部下ですから、これはあなたの指導不足ですね」

「仰る通りです」

< 94 / 142 >

この作品をシェア

pagetop