主任は私を逃がさない

 機能停止の状態からようやく回復したらしい次長が怒鳴り出す。

 茹でダコみたいに顔を真っ赤に染めて、今にも引っくり返りそうに身を反らしながら、自分よりも背の高い史郎くんを威嚇する。


「こ、こんな事をしてどうなるか、わ、分かっているのか!? お前の上司の中山部長に、ほ、報告するぞ! 社長にも当然、報告するからな!」


 怒りで我を忘れて、ろれつが回らないんだろう。

 次長は白目を剥きながら何度も言葉をつっかえ、史郎くんの顔に人差し指を向けてギャンギャン喚き散らす。


「停職程度で済むと思うな! よくて降格、普通にクビだ! 残念だったな! せっかく中山部長にゴマをすって昇進できたのに!」

「知った事か。クビや降格にビビッてこの世で一番大切なものを見捨てるほど俺はバカじゃない」


 史郎くんは全く臆さず、吐き捨てるようにそう言って堂々と胸を張る。

 そして私と次長の間に、巨大な壁のように立ちはだかった。


「何があろうと、俺はここを退かない。退くくらいなら死んだ方がましだ」


 本当に、一歩も退かない覚悟の籠った声だった。

 その迫力に圧されて次長はグッと言葉に詰まり、周囲の皆は息を飲んで史郎くんを見つめている。

 私も目の前の大きな背中を見つめながら、頭の中が真っ白だった。

 この世で……一番大切な……?

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