グリッタリング・グリーン

「申し訳ございません、お部屋をご用意いたしますので」

「そんなことしないで、私、部屋を上にいただいてるの、ふたりともそこで着替えるわ」

「ではタオルとお飲み物を、お持ちいたします」



ひたすら恐縮している会場の人と、沙里さんたちの姿が見えた。

ドレスとスーツが、白っぽいものでどろどろだ。



「ん、これ、おいしい!」

「食うなよ、そんな服についたの…」



スカートについた固まりを、ひょいと口に入れた沙里さんを、部長があきれてたしなめた。

わかった、あれ、ケーキだ。


慌ただしくも楽しそうに、ふたりがエレベーターに駆けていく。

よし、と葉さんがつぶやいた。



「できることはやったかな、服を買いに行くには遅いし、少なくとも数時間、部屋で過ごさなきゃならないはずだ」

「どうなるでしょうか」

「ベッドを前にして、男と女がすることっていったら、ひとつでしょ」

「そこまで単純なものですか」

「少なくとも俺なら、ダメ元でも誘うだけ誘ってみるね」



…いばることかな。

ようやくこそこそした立場から解放されて、階段の陰からロビーに出る。

瞬間、慌ててもう一度、階段の陰に駆けこんだ。


まだ部長たちが、エレベーターの前にいて、危うく鉢あわせするところだったのだ。



「あっぶねー!」

「葉さん、しー! 何か、雰囲気が」



沙里さんが、部長のポケットチーフで、首周りのクリームを拭ってあげているところだった。

汚れた上着を脱いで、スマートなベスト姿の部長が、くすぐったそうに首をすくめる。


沙里さんが何か耳打ちすると、部長が噴き出した。

いかにも友人同士という感じで、あけっぴろげに笑いあったふたりは、ふいに視線が絡まると。

戸惑ったように一瞬、見つめあって。


そうとはわからないくらい、ほんのかすかに。


ためらいがちに、控えめに。

唇を触れあわせた。



< 132 / 227 >

この作品をシェア

pagetop