グリッタリング・グリーン
違う違う、とエマさんが首を振った。



「あの状況じゃ、スタッフが責任を感じちゃうでしょ、半分は葉の自業自得なのに。それを気にするんじゃないかってこと」

「あの子は意外と、そういう部分は鈍感じゃないのよね」

「自分で思ってるより、リーダーに向いたタイプなんだと思うわ」

「鈍感で思い出したんだけど、エマ」



羨ましくなるほどおいしそうなピンクレモネードに口をつけて、沙里さんが隣を見る。



「何?」

「葉とはちゃんと話したの? きっとまだ、あなたが夢のために自分を置いてったんだと思ってるわよ」



エマさんが、しらっと流そうとしたのは、許されなかったみたいだった。



「エマ」

「そう思ってもらってもいいわよ」

「あなただけの話じゃないのよ、葉の身にもなりなさい、どうして事前に相談してあげなかったの」

「だって当時、葉はまだ二十歳になるかならないかの、子供だったのよ、私の話なんて、したって仕方ないでしょ」

「その頃からあの子は、自分の感性と腕で食べてたのよ、そうやってすぐ大人の余裕を見せたがるのは、悪いくせね、エマ」



はいママ、とふてくされるエマさんが、なんだか新鮮だ。



「日本にいるうちに、誤解をといてあげて」

「だから、あながち誤解でもないんだって、私は確かに勝手だったし。そもそも昔の話を蒸し返すような間柄じゃないのよ、もう」

「葉がそう言ったの?」



再び目をそらしたエマさんの視線が、私とぶつかった。

青い瞳が申し訳なさそうに、私と沙里さんの間で揺れる。



「そのへんの話、聞いてる?」

「前に…、でも葉さんも、エマさんが急に留学した理由を、よくは知らないみたいで」

「マーケティングの勉強をしたかったのよ、私の専攻は美術史で、エージェントをするには心もとなかったから」

「どうして、突然?」



それまではキュレーターだったって、言ってた。

葉さんがエージェンシーに嫌な思いをさせられた直後に、エージェントになるために勉強を始めるなんて。

それじゃ、葉さんを二重に傷つけるだけだってことくらい、当時の誰もが、わかっただろうに。

< 171 / 227 >

この作品をシェア

pagetop