グリッタリング・グリーン
そんなの、一生同じ状態のままなんて、いられるわけがないのに。

みんな生きて、毎日いろいろ感じてるんだから、何かが変わって、当然なのに。


水も空気も、流れている状態のほうが健全。



「エマさんの受け売りだけど」

「独り言に登場させてもらえるなんて、光栄ね」



食べている途中じゃなければ、絶対叫んでた。

顔を上げると、エマさんがくすくすと笑って、こちらを見おろしている。


そのうしろには。

沙里さんがいた。





「ほんとね、こんなおいしいお店、あったんだ」

「朋枝さんから教わったのよ」



沙里さんは真っ白なリネンのブラウスに、爽やかでタイトなパンツを合わせている。

パンプスの脚を組んでパスタを食べる姿が、何度も言うけどほんとに葉さんに似てる。

なんだろう、骨格とか姿勢とか、そのあたりだろうか。



「何がエマの受け売りだったの?」

「えっ、あ、いえ」

「男はまったくバカねって話よ、ほら、朋枝さんも葉に振り回されてるから」



そうよね、と沙里さんが申し訳なさそうに顔をしかめた。

ふたりは仕事の打ち合わせの途中らしい。



「マサキの企画の件でね、お金の話とか契約書類とか、そういうのはマサキに言っても無駄だから」

「あの人も、やればできるのよ、嫌いなだけで」

「葉はそのへん、きちんとしてるのよね、甘やかす人がいるかいないかの違いかしら、そういえば彼は元気?」



ふいにエマさんが私に訊いた。

葉さんの退院の直前に本国に呼び戻されてしまい、撮影の立ち会いもできなかったらしい。



「はい、まだ指が完全に自由では、ないみたいですが」

「そうなんですってね、気に病まないといいけど」

「お会いした感じでは、あんまり気にしている様子は、なかったんですよ」


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