グリッタリング・グリーン
『お前が何よりも誇りにしている、その感性と表現する力は、間違いなく慧がくれたものだ』
『加塚さん…』
『俺は、沙里の子供には、絶対にそういうものを、持っていてほしかった』
葉さんはじっと、何か言いたそうなのを我慢してる。
部長が目を細めて、そんな彼を見つめた。
『お前と慧は、本当によく似てるよ』
『よしてよ』
『お前も自覚があるだろ』
特に、と言葉を続けて、室内に目を走らせる。
奥のほうでお酒を飲んでいた慧さんが、はっと部長の視線に気づいて、急に居住まいを正すのが見え。
部長は笑い、葉さんの頭を抱き寄せた。
『俺がいないとダメなところが、そっくりだ』
愛情たっぷりに額をぶつけると、離れ際にぽんと腕を叩いて、飲めや歌えの騒ぎの中を、進んでいく。
人ごみの先では、慧さんが叱られた子供みたいな顔で、それを待っていた。
見送る葉さんは、なんだか泣きだしそうにも、満たされているようにも見えて。
やがて私を振り返ると、懇願するように言った。
『俺の家で、飲み直さない?』
「つまみしかないんだけど、腹減ってないよね」
「むしろいっぱいです」
やりますよ、と葉さんが歯で開けようとしていたナッツの袋を受けとると、サンキュ、と微笑む。
葉さんの家は、仕事場にしている民家とは正反対の、近代的なマンションだった。
玄関を入ってすぐの部屋に通された時は、思わず大きな声が出た。
『アトリエですね!』
『そんなたいした場所じゃないよ、単にいつでも描けるようにしてあるってだけで』
10畳ほどの、真っ白な壁とダークウッドの床の部屋に、家具は黒いソファとデスクだけ。
部屋の真ん中に、描きかけのデッサンが載ったイーゼルと椅子が置いてある。
壁際では、モデルである石膏像が部屋を見つめており、自在に位置と方向を変えられるライトが、天井に設置されていた。
像は私の大好きな、軍神マルスだ。
『俺、嫌い、つるんとしてて、描きにくい』
『美形じゃないですか』
『ああいうのが好きなの?』
露骨に眉をひそめる葉さんに、なんでそんな顔されなきゃいけないの、と思った。