グリッタリング・グリーン

「どうも俺、そっちのほう淡泊らしくて、エマにもよく、やる気出しなさいって怒られた」

「あの、そういうお話、まだいいです」



男女の会話の生々しさに萎縮しつつ、それで“初期教育”に至ったのかあ、と納得している自分もいる。

そうなの? と首をかしげていた葉さんがふと、空いちゃった、とワインボトルをさかさに振った。



「早すぎませんか」



私はほとんど飲んでない。

ぎょっとすると、いいじゃん、と口を尖らせる。



「明日休みなんだし、それとも帰る?」

「帰りませんけど、それは泊まってくという意味じゃありませんでした」

「あっそ、終電の時刻は自分で気をつけててね」



俺は教えないよ、と言い捨てて、たぶん次のワインをとりに、部屋を出ていってしまい。

戻ってきた時には、俺すげえ、とやけに満足げに、片手に包みを持っていた。

いただきものの、たいそうレアなチーズを、とってあったのを思い出したらしい。


今食わないで、いつ食うの、と気に入ったらしいフレーズを口ずさみながら、カットしてくれる。


よく笑う人だったんだなあ。

横顔を見ながら、考えた。


すぐ怒って、なんでも言っちゃって、仕事のこととなるとストイックで、でも貪欲で苛烈で。

冗談が好きで、おいしいものも楽しいことも好きで。


それから、優しい。



チーズのかけらがひとつ、トレイを転がり出た。

拾って口元に差し出すと、葉さんは少し考える様子を見せてから、口に入れて。

ついでに私の指を、軽く噛んだ。

こんなところも、最近知った。


ねえ葉さん、とふわふわした心地の中、呼んだ。



「ん?」

「何か描いてください」

「俺、今、絶対まともな線引けないよ」

「私、葉さんの絵が、大好きなんです」



あんなふうに描けたらと、憧れて。

心の中に、あんな美しいビジョンをしまっている人って、どんな人なんだろうって、ずっとずっと、知りたくて。

知ったらますます、憧れた。

ありがとう、と葉さんがくすくす笑った。



「生方の中では、俺は、榎本葉なんだね」

「嫌ですか?」


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