グリッタリング・グリーン
彼は首を振っただけで、じゃあ誰とそういうことをしているのかは、教えてくれなかった。



「野球はしないの」

「手を痛めたくないから」

「これまでの作品を、持ってきてくれた?」



ようやく本題に入って安心したんだろう、彼が持ってきた薄いカルトンケースから、ファイルをとり出した。

整然と年代順に並べてあるそれを受けとり、めくりながら見る。


その中にあの、文化祭のフライヤーの原画もあった。



「これを見て、あなたに連絡をとりたくなったのよ」

「ありがとう」

「頼まれて描いたの?」

「うん」

「どうしてこの絵にしたの」



彼が描いたのは、空と大地を埋め尽くすように咲く、絶妙に美しくグラデーションした花たちだった。

シンプルに綺麗で、それでいて神秘的で。

若さゆえの勢いと、照れくささみたいなものがうまく表れている。



「みんなに訊いたんだ」

「何を?」

「文化祭で、何をしたいかって」



他愛のない世間話より、作品そのものについて語るほうが気が楽らしく、彼がチェアの背に寄りかかった。

少しだけリラックスしたその様子は、ますます彼を幼く見せ、何も知らずに年齢を当てろと言われたら、15歳と私は答えるだろう。



「俺の作品なら、好きに描くけど。こういう絵には、役割があるでしょ」

「だから周りの要望に合ったものにしようと思ったのね、それでみんなは、なんて答えたの?」

「他校の彼女が欲しいって」



思わず笑うと、彼も遅れて、ちらっと笑った。



「俺の高校、女クラっていう男女混合クラスがひとつだけあって、そこ以外は男しかいないんだ」

「それでどうして、この絵になったの」

「この花、なんだかわかる?」

「これは梅でしょう、きんもくせいと…藤?」

「惜しい、桐だよ」


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