グリッタリング・グリーン
桐の花なんて見たことのない私は、そう、とだけ答えて、説明を待った。

彼は私が先を知りたくてうずうずしているのを楽しむように、にやりと笑ってみせる。



「学校の近くに3つ女子高があるんだけど、その校名がね」



梅光学園と、桂花女子と、桐泉高校。


あっけにとられて、言葉もなかった。

彼がそんな私を見て、楽しそうに笑う。


いたずらっ子のようなその笑顔に、次第にこちらもつられ。

気づくと一緒になって、大笑いしていた。



「特にきみたち来てね、って意味?」

「そうだよ、高校同士でフライヤーは交換されるから、気づく子は気づくし、実際女の子の来場が、記録的に多かったんだ」

「カップルはできた?」

「俺の知ってるだけでも、3組」



もうやだ、お腹痛い。

この美しい絵に、そんな即物的なメッセージが込められていたなんて。

まさに高校生の男の子しか思いつかない、くだらなくて大胆で、切実なアイデアだ。



「来年の夏に、ベルギーで展覧会があるの、そこに出品する作家を探しているのよ、力を貸してくれない?」



差し出した手を、彼はぽかんと見て。

しばしののちに、ふっと微笑むと、握手してきた。


その顔は、プロのものだった。






「先に言いなさいよ!」

「いてっ」



恥かくところだったじゃない、と背中を叩いて叱ると、ごめんと素直に恐縮する。

パーティ用に巻いていたストールをとって、設営中の展覧会会場に散乱している椅子のひとつにかけた。

葉も少しきょろきょろしたあと、小綺麗なスーツが汚れるのも構わず、埃っぽい椅子に腰を下ろす。



「すごい人がお父様なのね」

「俺が頼んだわけじゃないけど」


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