グリッタリング・グリーン
父にメールを打って、母を止めるよう訴えようかとも思ったけれど、板挟みにするのも気の毒だ。



「どれにしようか選んでるところなのよ」

『何が?』



あらっ、口に出してた。



「なんでもない」

『彼氏の話か、まだこれって人、いないんだね』

「いないわけじゃないってば!」



つい声をあらげた私を、生意気にも葉は笑った。

俺さあ、と無邪気な声がする。



『エマに鍛えてもらってよかったよ』

「なんの話よ、いきなり」

『そこそこいろんなこと、したじゃん、ああいうの、やっぱり大事だよね、経験値っていうか』

「人のことをアブノーマルみたいに言わないでちょうだい」



言ってないよ、と心外そうな声。



『おかげで、生方にいろいろ教えてあげられるんだし、エマには感謝だよ』



…間違っても彼女の前で、それを言わないことよ。

私もわりと、そのへん開放的な自覚あるけど、あなたのは完全に、起爆剤よ。

こちらの頭痛も知らず、葉は楽しげに笑った。



『初めての時に、酒ぶっかけられたのなんて、俺くらいだよね』



のんきな声。

満たされたその様子に、愛しさがこみあげる。


葉が幸せでよかった。

成功を手にしつつあって、よかった。


ねえ私はね、誰より早くあなたのファンになったことが、今でも自慢なのよ。

原石だったあなたを、見つけた自分の目が誇りなの。


これからもそんなふうに、自分の信じたクリエイターが、世界に認められていくのを見たいの。

それが私の、何物にも代えがたい喜び。


きらめく才能の塊、私の葉。

どんどん羽ばたいて、大きくなってね。

もう誰ひとり、あなたを好きに操ろうなんて考えないくらいに。


窓の外には、真夜中にさしかかる夜景が広がっている。

葉のほうは真っ昼間だろう。


この電話を終えたら寝よう。

そう決めて、PCを閉じる準備をした。


電話の向こうで、返事を待っている気配がする。

おやすみ、おバカさん、大好きよ。


そんな思いが、届くといいと思いながら。



これだけは言っておかなくちゃと、慎重に伝えた。



「私は、舐めなかったけどね」







Fin.


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