グリッタリング・グリーン
誰が彼を支えたんだろう。

それはおそらく、"カヅカ"だ。


何度も葉の口から名前だけは聞き、けれど会ったことはなかった、葉が不思議なほど心酔している、あの男だ。

そんな資格はないけれど、と一応前置きしてから。



「どうにも妬けるわ」



これだから女は、と投げやりな気持ちで考えた。







『どうするべき?』

「私に訊いてる時点で、ないわ」

『じゃあ他に、誰に訊くべき?』



確かにそうねえ、と携帯を肩に挟んで悩んだ。

こんなくだらない話を国境を越えてできるなんて、インターネット回線を使った通話システムって偉大ね、と考える。

おっと、くだらなくなんてないわ。

私の可愛い葉の、目下の課題なんだもの。



「朋枝さんは、何が嫌なのかしら」

『恥ずかしいってさ』

「電気消すよって言えば」

『言ったよ』

「じろじろ見ないしって」

『言った』

「変なとこ舐めないからって」

『言ったって』

「…言ったの、本気で?」



言った…と葉の声が自信なさげになる。

まあ、朋枝さんの印象からすると、葉の思惑ほどすんなりいかないだろうとは思っていたけれど。

こりゃ葉のほうにも、かなり問題があるわね、とため息が出る。



『こんな話をするために電話したんじゃないんだ』

「あらそうなの、用件は何?」

『俺の仲間の特機屋がね、東海岸で仕事を探してるんだ、西にはつてがあるんだけど、そっちのほうはなくて』

「なるほどね、誰か紹介できるか、調べてみるわ」

『助かるよ、あとで3人で話せる?』

「彼は日本?」

『今はタイで撮影してる』



通信環境に若干の不安を覚えながら、わかったわ、と請け負った。

年々、地球の上は狭くなっていく。


それなのに、とイギリスに住む母からのメールを眺めて、頭を抱えた。

なかなか結婚しない娘に、母親が思うことってのは、この数世紀、変わらないらしい。

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