グリッタリング・グリーン
葉さんは休みなしに煙草を吸いながら、弱めのカクテルを飲んでいる。

いつもぼんやりと伏せ気味の目は、アルコールで少し潤んで、そのぶん表情も柔らかい。

長いまつげと、華奢な身体つきと、甘めに整った顔。

改めて見ると、綺麗な人なんだなあと考えているうち、そうだと思い出した。



「部長は、葉さんのお父さんの、お友達なんですよね」

「そうだよ、美大時代の同級生、ちなみに葉の母親もね」

「お若くないですか?」



部長はまだ40代前半だ。

私と葉さんが23歳であることを考えたら、ご両親が部長の同級生っていうのは、かなり若い。



「できちゃった学生結婚だよ、あり得ないよね」



テリーヌをフォークでつついていた葉さんが、突然不機嫌な声をあげた。

そういう言いかたするな、と部長がたしなめるけれど、ふんとふてくされて聞かない。


葉さんのお父さんは、業界の人じゃなくても知っている、有名なクリエイターだ。

家電とかステーショナリーとかファストファッションとか、あらゆるものとコラボレーションしている。

意図していようといなかろうと、彼の手がけた商品を手にとったことのない人なんて、私の世代にはいないだろう。


でもどうやら、葉さんはお父さんの話が嫌らしい。

クリエイターとして先達である父親に負けたくない気持ちがあるのか、単に仲が悪いのか。

訊いてみたいけど、これ以上この話題を続けたら、葉さんが本当に不機嫌になってしまいそうで思案していると。

テーブル席とフローリング席を仕切る背後のスライドドアが、小気味いい音を立てて開いた。



「よおっ加塚、久しぶり。あれっ、葉もいんのか、相変わらずチンケでガキくさい創作してんのか?」



周囲が何事かと振り返るような大音声と共に、サッカー選手みたいに刈り込んだ頭とひげと、じゃらじゃらしたシルバーのアクセサリーをまとった男の人が現れた。


私たち三人は、驚きに口もきけなかった。

値の張りそうなダメージデニムに包まれた脚から、上へと順に追っていくと、茶目っ気のある瞳と目が合う。

にこりと私に笑いかけると、その人は葉さんに向かって愉快そうに言った。

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