グリッタリング・グリーン
「葉の今のコレか? 前のとずいぶん毛色が違う気がするけど、これはこれで純朴でいいじゃん」
突然、テーブルがひっくり返りかけた。
食器が騒々しく鳴り、いくつかは床に転がり落ちる。
葉さんが立ち上がりざまに蹴り飛ばしたのだ。
あっけにとられた。
先ほどまでのご機嫌はどこへやら、葉さんは見たこともないくらいの怒りを全身から放っている。
「おおい、酔っぱらって粗相か? 恥ずかしい真似よせよお」
芝居がかって肩をすくめる男性に、葉さんの唇が、わなわなと震えるのが見える。
その両手がゆっくりと握りしめられて、私たちの頭上で、発火しそうなふたりの視線が絡まった。
「何しに来やがった」
「見りゃわかんだろ、ダチの顔見に来ただけだよ」
「出てけ」
「お前に命令される覚えねえし、俺も久々に、こういう普通の女の子の横で飲みたいしなあ」
親しげに肩を叩かれる。
それを見た葉さんの頬が、さっと紅潮した。
今にもテーブルに足をかけて飛びかかりそうな彼を、部長が必死に押しとどめている。
出てけ、と葉さんはもう一度叫んだ。
男性はにやにやと、余裕の面持ちで見返す。
「出てけ、クソ親父!」
そうだ。
絶対に見たことのある顔だと思った。
世界的に有名なプロダクトデザイナーであり、クリエイティブディレクター。
聖木慧(まさきけい)、その人だ。