グリッタリング・グリーン
相槌も打たずに葉さんは煙草をくわえ、荒っぽい仕草でテーブルの上のライターを探した。



「ま、自己満足でゲージュツやってりゃいいんなら、そのあたり気にする必要なんて、永遠にないから安心しろ」



葉さんが、煙草の箱を投げつけた。

予測済みだったのか、ぱっとそれをよけて立ち上がると、聖木氏はジャケットを拾い上げる。



「加塚、またな」

「沙里(さり)は元気か」



その問いかけに、なぜか聖木氏は微妙な表情を浮かべたように見えた。

けど、にこりと笑顔をつくると、元気だよ、とうなずく。

部長はふっと微笑み、よろしく伝えて、と手を振った。

最後に、私に向けて大仰な目くばせをして、葉さんのお父さんは去った。



「沙里さんて、葉さんのお母さんですか」

「そう、学科のマドンナでね、葉はもう引き写したってくらい彼女にそっくりなんだ、たまにぎょっとするよ」



へえ。

葉さん、お母さん似なのか。

まだ腹立ちがおさまらないのか、いらいらと煙草を噛む葉さんを眺める。

確かに、この中性的な顔立ちの面影は、お父さんには全然なかった。


葉さんはちらっと私を見て、ばつが悪そうにすぐそらす。

私は冷静に会話しているふりをしつつ、彼が見せた激情に、まだ驚いていた。

あの葉さんも、こんなふうになることがあるんだ。



「葉さん、何か飲みませんか」

「いい」

「葉、生方に謝りなさい、びっくりさせたんだから」



そんなお気遣いなく、と手を振る私に、葉さんは何か言いたげな視線を向けてきたけれど、謝りはしなかった。

部長がため息をついて、その頭をなでる。



「親父ともう少し仲よくしてやれ、ひとり息子だろ」

「仲よくできる要素、ある?」


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