グリッタリング・グリーン
「いやー、ソーシャルネットワークって便利だな」
「ほんとだ、お前から“いいね”来てる…」
薄型の端末をいじりながら、部長が頭を抱えた。
たまたま隣のお店で飲んでいた葉さんのお父さんは、部長のチェックインでそれを知り、突入してきたらしい。
私の隣に腰を落ち着けて、日本酒をガバガバ飲んでいる。
しゅっとしたワイシャツ姿の部長とは対照的に、Tシャツにカジュアルなシャツを羽織った姿で、小柄なスポーツマンて感じだ。
動くたびにどこかしらのアクセサリーがちゃらっと鳴り、この人のデザインの機能美を知っているだけに、ギャップが激しい。
一時の沸騰を部長によってなんとか鎮静された葉さんは、顔を見るのも忌々しいとばかりに、うつむいてお酒を飲んでいた。
「で、この子は?」
「俺の部の社員だよ、制作進行が主だけど、自分でも絵を描く器用な子だ。葉とのやりとりは全部請け負ってくれてる」
聖木氏が、へえと目を見開いた。
「わがままで偏屈で、大変だろ」
「いえ、そんなことは、全然」
慌てて否定した。
実際、葉さんはそんなところ、全然ない。
発注の内容を真剣に考えて、ベストの作品を納品してくれるし、期日に遅れたことも一度だってない。
ただ口数が少ないうえに物言いがぶっきらぼうで、言葉を選ばないので、入りづらいってだけだ。
「もう少し大人になりゃあな、作品にも味が出てくるってもんだぜ」
「ちまちました商業製品屋に言われたくねえ」
それまで黙って聞いていた葉さんが、堪えかねたらしく、グラスをテーブルに叩きつけた。
聖木氏は面白そうに片方の眉を上げて、ふんと笑う。
「お前はわかってねえ、原価とか生産ラインとか、そこまで考えて工業製品てのは、できてんだ」
「楽しいかよ、そんなものに縛られて」
「その縛りがあるから、楽しいんだ。それがあるから、俺の作品は誰でも手にとれる価格で市場に出て、世界中に広がる」