グリッタリング・グリーン

水張りしていたパネルから、カッターで紙を切り離す。

いつも胸が高鳴る、完成の儀式。


不思議と、パネルにおさまっていた時と一枚の紙になった時とでは、描かれている絵の表情が違う気がする。

新しい絵をカルトンに挟んで、私は会社に行く準備をはじめた。



「おはよ、なんか元気だね」

「久々に完徹しちゃって、一周して元気です」

「それ、若い証拠」



いいね、と給湯室から出てきた未希さんが明るく笑う。

たとえ睡眠時間が減ろうと、好きなことをしていると疲れないのは、なんでなんだろう。

翌日に備えて、やりたいことを我慢して早く寝たりした時って、結局そんなに元気でもない気がする。

すると未希さんが、何か箱を差し出した。



「糖分補給に、はい」



わっ、可愛いチョコだ。

ピンクとダークブラウンのハートたちの中からひとついただいて、思わず、そうだ! と声をあげた。



「どしたの」

「いえ、えーと、もうすぐバレンタインだなあって」

「葉さんにあげるの?」



なんでそんな見透かすんですか。

赤くなりつつ、部長にもです、と苦しい言い逃れをする。


先日ごちそうになったお礼に、ささやかな贈り物をしても罰はあたらないだろう。

葉さんには、この間不快にさせてしまったお詫びに。

当分仕事で会う予定もないから、これを理由に一度会いに行こう。



「社内で配る風習は、ないんですよね」

「うん、だからそうやって個人的にあげるのはオッケーよ、私も毎年、部長とチームの人にだけは配ってる」



噂によると、人事総務部のおばさまが、男尊女卑の悪習と言って配らせないのだとか。



「どこまで本当なんでしょうね」

「ねえ、でも女性の数も多いから、みんなであげたら、男の人たちお返しに困っちゃうかもね」

「確かにですね」


< 47 / 227 >

この作品をシェア

pagetop