初心者オコトワリ!

夜、八時。
私はオフィスの奥で、積み上げられた紙の束に黙々と立ち向かっていた。

「山下さん、まだ終わりませんか?俺、手伝いますよ。」

パーテーションの脇から顔を後輩の葉山くんが顔を覗かせて声を掛けてきた。

「ああ、うん。大丈夫。あと少しやったら、残りは明日に回すから。」
「俺、手伝いますよ。今日、何にも予定ないんで。」

申し訳なさそうな顔で断りを入れたが、どうやら彼の親切心はおさまらなかったらしい。
彼は、今時珍しい、真面目で仕事熱心な好青年だ。
思わず、こちらに近づいてくる葉山君を制止した。

「ああ、ちょっと、待って。今、やってるの給与明細なの。」

そのキーワードに、葉山君も足を止める。

「それで、残業して一人でやってるんですか?山下さん、真面目ですね。」
「そんなことないわ。ただ、時間外の方が邪魔されないから。集中できるのよ。」

私はそう笑って言うと、手元の紙の束を揃えて、機械の目盛りに合わせていく。
ストッパーを左手で押さえながら、右手で思い切りよくレバーを下ろした。
ザクッと豪快な音を立てて、紙の束はきれいに真っ二つに分かれた。
< 6 / 10 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop