初心者オコトワリ!

毎月、給料日前に社員に配布するための給与明細を作成する。
総務部人事課のルーティンワークの一つである。
そして、システム上、明細は一枚の紙に上下2名分が出力されるため、真ん中で切る作業が発生するのだ。
その時に、活躍するのが“彼”だ。
それほど使用頻度が高い訳ではないから、電動で何百枚も一気に切ってしまうような大型の機器は導入していない。
せいぜい、一度に10枚切るのがやっとで、手動の、しかも年代物の裁断機だ。
だから、彼を使うのにはちょっとしたコツが要る。
まずは、欲張って一度に沢山切ろうとしないこと。
まっすぐに、そして正確に切るには、紙の端を目盛りにきちんと合わせることも大切だ。
最後に、思い切りよくレバーをひくこと。少しでも躊躇すると、美しい切り口にはならない。
繊細でいて大胆さも必要な仕事だ。

いつも通り、ザクザクと紙を切っていると、再び葉山君が口を開いた。

「山下さん、終わるまで待ってます。」
「いいわよ、気にしないで帰って。もう少しやったら、私も帰るし。」
「いやいや、女性をこんな遅くに一人っきりにするなんて、出来ません。駅まで一緒に行きましょう。」
「もうアラサーだし、誰にも襲われないわよ。」
「分かってないな。山下さん、色気がダダ漏れですよ。一人で夜道歩いてたら、もう襲ってくれって言ってるようなもんですよ。」

大げさなほめ言葉が可笑しくて、私は思わず声を上げて笑った。
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